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ミルドレッド・ハブルはカックル魔女学校の二年生になりました。今日は、はじめての登校日です。
 魔女学校の一年間は、ふたつの学期にわけられています。一学期めは、九月に始まって、一月の終わりまで続きます。これは冬学期とよばれていて、そのあと、一月間の楽しい冬休みに入ります。二学期は、三月に始まって、七月いっぱいで終わり。げんみつにいえば、三月のはじめは、まだずいぶん寒くて、冬のような日も多いのですが、二学期は、夏学期とよばれています。二学期が終わったあと、九月のはじめまで、すてきな夏休みが一月、ひかえています。そして、九月から新しい学年の始まりになるのです。
 あれこれ問題をひきおこして、さんざんな一年をすごしたあとで、ミルドレッドが学校にもどってこれたのは、きせきといってもよかったでしょう。ミルドレッドは、まったく運の悪い女の子で、どこに行っても、災難がつきまとって離れないのです。いつも、人の役にたつ、おぎょうぎのいい子でいたいと思っているのに、ひとたび問題がおこってみれば、いつのまにか自分が搬屋、さわぎの原因になってしまっています。まるで、災難を招きよせるとくべつな才能を持っているかのようでした。ふつうのおだやかな行事を、とんでもないドタバタさわぎにしてしまうのも(とくに、早がてんしたときなど)いつもミルドレッドでした。
 ともかく、今年はミルドレッドも、二年生になったことだし、もっとかしこく(とはいえなくても、すくなくとも、前よりは注意深く)なるつもりでいました。そして学校一のふできな魔女だという評判を、なくしてやろうと、決意していました。
 ほうきに乗って、ろうやのような学校の正門におりたったミルドレッドは、さくごしに、霧のうずまく校庭をのぞいてみました。今日ばかりはミルドレッドも早く着いたので、校庭には、まだひとにぎりの生徒しかいません。みんな、ひどい寒さの中で足ぶみしたり、マントにちぢこまったりしています。だいたいがこの学校は、いつも寒いのです。お城のような石づくりの建物ですし、松にかこまれた山のてっぺんに建っていましたから。おまけに、その松林は、びっしり密生しているため、たいへんじめじめしたいん気な所だったのです。、校庭ですごすことが多い生徒たちは、しょっちゅう、かぜをひいたり、インフルエンザにかかったりしていました。
「健康的でしんせんな空気!」体育担当のドリル先生は、校庭に集まってせきをしたり、鼻水をすすりあげたりしている生徒にむかって、いつも、こうわめきます。「体のために、これにまさるものはありません。ベルがなる前に、教室に入ったりしたら、反省文を五百回書かせますよ」
 ミルドレッドは正門を飛びこすと、ものなれたようすで、ふわりと校庭に着地しました。
「まずまずの出だしだわ」と、考えて、まわりを見まわしました。こんなうまくいったんだから、だれかが見ていてくれたんじゃないかと思って。でも、だれも見ていません。人というものは、何かひどい失敗をしたときにかぎって、注目するもので、成功をした瞬間は、決して気づいてくれないのです。
 ミルドレッドは、ほうきの上から、スーツケースをおろしました。ほうきは、つぎの命令を待って、おとなしくただよっています。ミルドレッドが、トラチャンを見ると、トラチャンは、目をしっかり閉じたまま、四本の足をつばさのようにひろげて、つめでがっちり、ほうきにしがみついています。このおくびょうな子ネコは、まだ、飛ぶのがこわくてしかたがないのです。ミルドレッドは、どこかに着くたびに、トラチャンをほうきから、引きはがさなければ